いすきですのブログ

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ダイナマイトビーチサンダル

ビーチサンダルをぶん投げると空中で爆発四散した。この破片のひとつひとつが銃弾のように危ない。

あのビーチサンダルに未来はなかった。だから俺は最後の役割として、彼をダイナマイトにしたのだ。俺は元国家認定ビーチサンダルダイナマイトマンで、未来のないビーチサンダルに寄り添うことが仕事だ。

はっ、と思う。寄り添う?実際には彼らをばらばらに吹き飛ばすだけじゃないか。それで救いのつもりか。死は救いとでも?

...俺は黙考をやめ、深呼吸し、代わりに、立ちはだかる強敵を睨みつけた。「心の裏側の声には耳を傾けるな。」3年前行方不明になった俺の師匠が、最後の日に遺した言葉だ。記憶が次々蘇る。あれは、こういう意味だったのですか?師匠はその翌朝には、春を迎えた雪のように静かに消え去っていたのだった。

それから、俺のこの長く苦しい旅が始まった。俺は祖国を裏切り、国家認定ビーチサンダルダイナマイトマンの資格も2週間で失効した。食い扶持を求めた俺は、自然と闇の世界に出入りするようになった。そしていつの間にか、この小さな組織の頭領になっていたのだ。

全ては、師匠に会うためだ。そのために全てを捨ててきた。俺の両親は幼い頃、当時幅を効かせていたビーチサンダルの対抗勢力であるクロックスに命を奪われたし、恋人なんてものあるわけないから、愛すべき者など俺にはいないが、その代わりに世話になった同僚や先輩がいた。気のおけない友人達にも恵まれた。だが俺は彼らと連絡を断ち、時に利用し、親から貰った名を捨て、あまつさえ祖国までも裏切ってきたのだ。

だがそんな旅も、今日で終わりだな。俺は改めてビーチサンダルの数を数える。11だ。これだけのビーチサンダルで俺は今から、それをやらねばならない。つまり、彼女を倒すのだ。俺の愛すべき、師匠を。

「よく来たわね。」

「師匠.......どうしてなんだ!?」

「今のあなたなら、もうわかっているはずよ。」

どういう意味だ?その思いが体の動きを鈍らせた。師匠はそれを見逃さない。とっくに殺し合いは始まっていた。彼女が放ったクロックスが足元に滑り込んでくる。避けられない!

大爆発が巻き起こる。だが、俺は死なない。もったいないが7つのビーチサンダルを同時に起爆した。師匠のクロックスは、本当に強い。衝撃を全て吸収するためには11個全てを盾に使っても足りないくらいの、最高レベルの爆発だった。本能がそれを察知した。だが身を守るためといって、全てのビーチサンダルを使えば勝ち目はなくなるだろう。それは敗北、すなわち死を意味する。だから、俺は7つのビーチサンダルだけを使い、余った衝撃は肉体で受け止めた。いわばこれこそが、愛なのだ。決して叶わない初恋と同じ味がする。彼女は、本気で俺を殺そうとしているのだ。

「しぶといわね。」

「悪役みたいなことを言う。」

「事実そうよ。お前もそれを理解したからここへ来たのだろう?わたしを殺すために。」

「違う!そんなつもりではなかった。......だが、見過ごせるわけがないだろう。」

「人間は、もっと自由になるべきよ。」

言い終わらないうちに今度は俺から仕掛ける。残り4つのビーチサンダル全てを使う大技、と見せかけたフェイクだ。本物のビーチサンダルは温存したまま、その念だけを飛ばし、相手が相殺のために使うクロックスで自爆するのを誘う、またはクロックスを浪費させるだけでも良いだろう。

狙い通り、容赦ない爆発が起こる。すぐに地中に身を隠す。

「姑息な!」

「お願いだ師匠。もうやめてくれ!」

「いいや、、、いいや、それだけはできない。ここでやめるわけにはいかない。それどころか、たとえ私がここで思いとどまったとしても、時代が私に成り代わってそれを成し遂げるだろう。お前はその前に、指をくわえるしかない。そのほうが絶望的だろう?それが、時代というものだ。言い換えれば、私とお前とで決定的に対立することがあるとすれば、それが時代なのだ。」

俺たちの戦いは続いた。師匠のクロックスに限りはない。文字通り無限にクロックスが供給されるのが、彼女のギフトだった。俺はそんな破天荒な彼女に恋をしてしまったのかもしれない。その行き着く果てがこの殺し合いなのだとしたら、そんなに皮肉なことはない。ああそうか、これが時代というものなのだな、師匠。

気がつくと、俺は脇腹にクロックスの直撃を受けていた。俺の11個のビーチサンダル全てを使っても受け止めきれない破壊的な威力をもつクロックスの、直撃だ。だが同時に俺も、残り2つになったビーチサンダルを当てることに成功したらしい。必死に鍛えたあの奥義は、彼女を殺すためにあったのだろうか?彼女は足に直撃を受けたようで、内臓は無傷かもしれないが、あの出血では長くは保たないだろう。お互いに、もう助からないことを理解していた。

「師匠...俺は、あんたのことが好きだったんだ。あんたに恋をしていた。あんたみたいになりたかったんだ。師匠、好きだ。」

「馬鹿を言え。私は裏切り者だ。祖国を裏切り、お前を裏切った。」

「そんなの関係ない!師匠、あなたは最後まで、どうして.....」

「もういい。馬鹿な弟子よ。もう、戦いは終わった。」

そう言うと彼女はそっと俺を抱きしめてくれた。そこには赦しだけがあった。赦し合うのにもう、ビーチサンダルもクロックスも要らない。

やがて俺と師匠は天へ召し上げられた。師匠は初めからこうなる予定で、ギフトとは天命の下に地上へ舞い降りた人間が帯びる神聖のことだ。ギフトを持った人間は死なず、その代わり天へ帰る。

俺にギフトはなかった。だがそこは彼女がどうにかしてくれたらしい。常識外れの馬鹿みたいにでっけえ愛があるとき、人間とはギフトの有無に関わらず、人を救うことができる。お前は彼女に救われたのだと、天使が教えてくれた。

天国でふたり仲良く、というわけにはいかない。俺たちは時代の狭間に落ち、大災害こそ免れたが、世界はまだ不安定なままだ。彼女はそれに責任を感じてるようで、すぐに転生を決めた。俺も、彼女の手助けをしたい。

今度こそどうなるかわからない。彼女が次もお前を見出して救ってくれるかは運が全てだし、天はお前の運に口出しできない。今ここでお前たちは今しばらくの幸福を過ごすこともできるが、次地上へおりたら、お前は今度こそ人として死ぬかもしれない。天使はそう告げた。だが、知るものか。俺はまた必ず国家認定ビーチサンダルダイナマイトマンになって、今度こそ世界を、いいや、彼女を救ってみせる。

意を決したとき、すでに彼女の姿はなかった。春を迎えた雪のように、彼女は静かに消え去っていた。そして、今度こそ俺は彼女に続いていった。

 

fin!!!!!