5月20日の詩 パターン
バタンと言ってドアが閉まってシートベルトを引っ張って、少しするとカチッと鳴る。
車の記憶だ。特に、車に乗るときの記憶だ。
決まりきったパターンだからその気じゃなくても覚えてしまう、なんてことない車の記憶。
この手のやつがたくさんある。俺が一番好きなのは、歩幅を調整して、帰宅途中にあるどこかの会社の建物の入口施錠用のチェーンが足下に垂らされてあるのを、ガシャリと左足で踏みつけるやつだ。
このガシャリという感覚は足の裏にまだ残っているし、体全体がどう傾くか、視界がどう揺れるか、チェーンがどんな影響をうけるか、周辺の物の配置や色合い、くすみ、風景、近辺の信号のルールまで、まだよく覚えている。あのチェーンがとても好きだったし、あれを左足でガシャリと踏みつけないと、一日が終わる感じがしなかった。
今となってはそのチェーンも片付けられてしまったらしい。気がついたのは3年前のことだ。